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檜山バターン(@hiyanimation)のブログです。note(https://note.com/batahiya)では別の記事を載せていてそっちの方がちゃんとしてます。このはてなブログは知人に読まれることを想定していることが多いです。

石森章太郎「龍神沼」の感想

  石森章太郎の「龍神沼」をkindleで出ている「石ノ森章太郎デジタル大全 龍神沼」で432円で買って読みました。おもしろかった!
 1961年発表(多分)の短編漫画。漫画の歴史を語るうえで手塚治虫の「新寶島(1947)」とかと並ぶ記念碑的作品だそうです。
 まえに読んだ「新寶島」があまりおもしろくないものだったので、「龍神沼」も「歴史を学ぼう」程度の気持ちで読んだのだが、おもしろかった。


 ~あらすじ~ 龍の伝説がある沼で知られる田舎で祭が行われる。その祭を見に来るため泊まりがけで都心から来た青年(主人公)は、沼の付近で和服の清楚少女を見るがすぐに消えてしまう。そんな不思議少女のケツを追っているうちに、主人公は龍の伝説を悪用して金を巻き上げようとする地主の謀略を知ってしまう。主人公と親戚の少女は成り行きで対決することに。地主は手下に弓をつがえさせて殺させようとする。窮地に追い詰められた青年のもとへ少女が雷とともに現れる!
 という感じでまあストーリー自体は説話物語ふうの話でヤバさは無いのだが、カット割りがすごい!

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 主人公が少女に会うシーン(上掲)も地主と戦うシーンも、祭の行われている場所ではないのだが、そこに祭の描写をぶち込むことで盛り上がりを表現する。切り取られた画像だとわかりづらいが実際に読むと自然に入ってくる不思議。

 映画におけるモンタージュだが、ここまで巧く、カッコよく使えている漫画作品は現代でも全然無いと思う。だから今読んでも新鮮さと面白さがある。
 おもしろいのでおススメです。

 概要を語ったので細かいことを書く。
 まずモンタージュがうまくいっている理由のひとつに4段のコマ割りというのがあると思う。4段にコマを割るのは当時の主流だが、現代の主流である3段割りよりも1ページあたりのコマ数が多いのでイメージカットを挿入しやすいのだと思う。
 またそれ以外にもコマの大きさ、風景の描写、すべてに意図がこもっていて何度読んでも発見がある。

 この作品の技術論は「マンガ家入門」で石ノ森自身が語っているうえ、「まんがでわかるマンガの描き方」で大塚英志も語っているのでそっちを読んでください。今なら全部無料で読めるぞ! https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_KS02000054010000_68/
 

 ストーリーは平凡だと書いたが、劇的なシーンをつくるための素材が詰まった、対比を活かした構造になっている。

 龍神の少女の神聖さを際立たせるために、俗の極みとして地主がいる。また、少女の妖しい美しさを表現するために、垢抜けないが可愛い少女ユミ(上掲のページのリボンつけた女の子)がおかれる。

 また、主人公は狂言回し的立ち位置で、そこまで物語を動かすポジションではないのだが、最後のクライマックスで人智を超えた竜神の少女にむかって叫ぶ。良い盛り上げ方だぁ……。
 ちなみに「デジタル大全」には石森が少女雑誌で描いた作品がほかにも入っていて、「龍神沼」の習作的な作品である「竜神沼の少女(ネットの情報によると1957年発表)」が載っている。石森当人が「見事に失敗した」と述懐するように*1、完成度が低い。というのもわりと長いストーリーを8ページに凝縮しているので展開が急すぎるし小ゴマだらけで漫画のリズムが無い。俺の描いた漫画かよ。しかしストーリーが同じでも魅せ方ひとつで化けるということを知ることができる好例だと思う。「竜神沼の少女」が収録されているのは巻末だが、先に「竜神沼の少女」を読んでから「龍神沼」を読んでみるのも良いかもしれない。  

 

 

 

 

*1:デジタル大全巻末のコメントより