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檜山バターン(@hiyanimation)のブログです。note(https://note.com/batahiya)では別の記事を載せていてそっちの方がちゃんとしてます。このはてなブログは知人に読まれることを想定していることが多いです。

「まんが日本絵巻」の台本を買った

まんが日本絵巻というアニメの実際に使用されていた台本が雑に売られていたので入手した。

いっぱいあったけど四冊だけ買った(資料保全の観点からすると良くない気がする)

1話Bパート

「母恋し安寿と厨子王」録音台本

3話Bパート

平敦盛」脚本 (放送時のタイトルは「笛の音悲し平敦盛」)

「笛の音悲し平敦盛」録音台本

5話Bパート

山田長政」(放送時のタイトルは「象に乗った英雄 山田長政」)脚本

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台本にはタイトルの横に何も書かれていないものと「収録用台本」と書かれているものがあり、前者が映像制作のためのたたき台となる脚本で後者がアフレコ用のものみたいだ。正式な呼び方わからないのでこの記事中では脚本、台本と呼び分けます。

私はこのアニメ見たことがないのでウィキペディアの情報と照らし合わせながらわかった点をあげていく。

これ以外にも十冊くらい売っていて録音用台本のほとんどに「石黒」もしくは「石黒様」と書いてあった。

これは総監督の石黒昇*1(1938-2012)のもので間違いないと思う。

作品の多くの話数に深く関わっていて石黒とつく人物は彼しか該当しないはずだ。

 

それぞれについて気づいた点

1話「母恋し厨子王」

書き込みは全く無い。

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脚本担当が中原朗とあるがウィキペディアのリストだと中原さんが書いたのはAパートだけで、パートのこれは阿井洋平*2氏のはずである。これはどういうことなのだろうか。

 

3話B

脚本の文字の「っ」がことごとく「つ」になっている。旧かな世代の人が書いたのだろうか。

脚本段階だとめちゃくちゃナレーションが多い。それが録音台本ではかなり減ってかわりに人物のセリフが増えて劇っぽくなっている。

そして録音台本にも書き込み、書き換えが多い。

一番重要そうなのはここかな。

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脚本は平家物語の敦盛の翻案で概ね流れは同じだが、敦盛が主人公で、恋人の奈緒という女がいる設定。画像はとうとう平敦盛が首をとられることになって熊谷直実に名を訊かれた場面。

「名乗らなくても首を取って人に見せたら見知っているものがいるはず。はやく首をとれ」と返すセリフが

「名乗るほどのものではない。はやく首をとれ」というものに変わっていて、セリフが大きく減ったために口パクの編集(もしくは撮影)指示変更まで書き込まれています。

「頭1+6Kとってあります

尻から1+17K口とじる」かな?

尻から1+17〜はおそらくカットの終わりから1+17K=41コマ前で口パクを終えるようにしてという意味だと思った。頭〜というのが撮影作業時に撮っておいたノリしろ部分のことかそれとも変更された指示の内容なのか僕にはよくわからないです。

しかしこのセリフの変更はかなり作品の印象を大きく変えるなあと思った。

変更前は原作である平家物語をマイルドにした言い方で、平家の公達としての誇りを見せるセリフだったのに対し、変更後は謙遜しながら死を受け入れる覚悟を見せるセリフになっている。

熊谷の葛藤が仏教的無常観をもとに描かれる平家物語の描写に対して、このアニメでは敦盛とその恋人の奈緒(オリキャラ)を中心に据えた「戦下の恋」みたいな話になっていて、そういうことを考えるとこの変更はとても良いと思える。まあ実際の映像を見てないのでわからないが、最後まで色々考えて作ってるんだねえ(教育番組)。

 

5話B

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本放送時のタイトルは「象に乗った英雄 山田長政」だがこの脚本時点では象に乗るシーンが無いので結構書き換わってそう。

表紙になんか書かれている

8/12 絵こんてup,

かな?ウィキペディアによると11/2に放送したみたいだから3ヶ月切ってる!バンクの使えない作品でそれって大丈夫なのか…?

裏表紙には作中で長政がシャムの女王から渡される「勇者の剣」のデザイン案らしきものが。曲刀は東南アジアじゃないだろ!

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この脚本には落書きがいっぱいある。

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最初は子供の落書きかとか眠かったのかとか思ったけど2枚目の似顔絵で大人が一応描こうとして描いたもんだとわかった。そして良く見てください。これエフェクトじゃないでしょうか?

1枚目の右は爆炎とかに見えるし左は飛行機とかに見える。かどうかはわからないですが、私が言いたいのはエフェクトアニメーターは落書きすらエフェクトっぽいということです!

石黒昇さんと言えばエフェクト系アニメーションの先駆けとされる人ですがこの回の脚本にエフェクトっぽいものは無いので単なる落書きと思われる。

さてこの脚本が使われていたと思われる1977年7-8月初旬と言えば「劇場版宇宙戦艦ヤマト」の公開時期であり、「さらば宇宙戦艦ヤマト

準備期間であります。歴史物やりながら頭の隅でヤマトのエフェクト妄想してたのかとか想像すると楽しいね。

 

総合的な感想としては作品を知るうえでも石黒昇さんの仕事を知る上でもかなり重要な資料たりうるもので、すごいもん拾っちゃったなという印象。少し調べたところ制作会社のワールドテレビジョン潰れてしまったようでそこから流れた可能性がある。そして会社が潰れたということは権利をちゃんと管理するところも消えた訳で、ますますこれは資料価値の高いものなんじゃないかという気がする……。

残りの台本も買ってDVDを買って実際の映像を見てみようと思います。見たらまた書きたい。

*1:宇宙戦艦ヤマトや1980年版鉄腕アトム超時空要塞マクロスOVA銀河英雄伝説等で監督や共同監督をやった人。僕はメガゾーンが好きです。

*2:検索したら脚本家阿井渉介氏が「刑事犬カール」で阿井洋平と誤記されたというサイトにあたった。http://wandaba.html.xdomain.jp/page5.html実は別名として名乗ってたのだろうか。